個人事業主は「稼ぐ力=会社員の給与+福利厚生すべて」です。会社員には当たり前に存在する傷病手当金・雇用保険・退職金が、個人事業主にはありません。この「公的保障の空白」を理解せずに保険を選ぶと、必要なものが抜け、不要なものが残ります。
会社員との公的保障の違い:3つの空白
個人事業主と会社員では、リスクが発生したときに「国がカバーしてくれる範囲」が根本的に異なります。
空白①:傷病手当金がない
会社員が病気やケガで働けなくなった場合、傷病手当金として給与の約2/3が最長1年6カ月支給されます。
個人事業主にはこの制度がありません。国民健康保険には傷病手当金の制度がなく(一部の自治体が独自に設けているケースを除く)、収入が止まった瞬間から自己負担が続きます。
空白②:雇用保険(失業給付)がない
会社員が会社を辞めた場合、一定期間は雇用保険の給付を受けられます。個人事業主は雇用保険に加入できないため、廃業・休業しても給付はゼロです。
空白③:退職金がない
会社員には退職金(または退職金代わりの確定拠出年金)が存在しますが、個人事業主には自動的に積み上がる退職金はありません。小規模企業共済や iDeCo で自力で積み立てる必要があります。
個人事業主が最優先で備えるべきリスク
上記の空白をふまえると、個人事業主の保険の優先順位は明確になります。
優先①:収入が止まるリスク(最重要)
病気・ケガで長期的に働けなくなった場合に最も困るのは「収入がゼロになること」です。
会社員には傷病手当金がありますが、個人事業主にはありません。この空白を埋める選択肢として「就業不能保険」があります。
就業不能保険で確認すべき点:
- –免責期間(60日・90日・180日が一般的)が自分の貯蓄で乗り越えられるか
- –精神疾患が対象かどうか(商品によって扱いが異なる)
- –自営業の「一部就業」状態でも給付されるか
詳しい選び方は就業不能保険の選び方:免責期間と保障額の決め方で整理しています。
優先②:死亡・高度障害リスク
扶養している家族がいる場合、死亡保障の必要性は会社員と同様にあります。ただし遺族年金は個人事業主(国民年金加入者)の場合、会社員(厚生年金加入者)より給付額が低くなります。
国民年金の遺族基礎年金:
- –子どもがいる場合のみ支給(子どもが18歳未満まで)
- –月約8万円(子ども1人の場合の目安)
- –子どもがいない配偶者への支給はなし
この金額では生活費をカバーしきれないため、扶養家族がいる個人事業主は生命保険での補填を真剣に検討すべきです。
優先③:医療費リスク
高額療養費制度は個人事業主にも適用されます。国民健康保険に加入していれば、月の自己負担には上限があります。
医療保険は、収入補填(就業不能)を別途確保したうえで検討する「3番手」の保障です。
貯蓄が緊急予備資金の役割も担う
個人事業主は収入が不安定なため、保険の前に「生活費6カ月分以上の緊急予備資金」を確保することが重要です。緊急予備資金がない状態で保険料を払い続けるより、まず貯蓄を積み上げる方が総合的なリスクが下がります。
会社員と間違えて入りがちな保険
個人事業主でも会社員向け設計の保険に入ってしまうパターンがあります。
①就業不能保険を免責期間60日で設定している
会社員が傷病手当金受給後の補填として免責60日を選ぶのは合理的ですが、傷病手当金がない個人事業主が同じ設定にすると、60日間の収入がゼロのまま乗り越えなければなりません。
免責期間に耐えられる貯蓄があるかを確認して設定しましょう。
②死亡保障を過大に設定している
遺族年金が少ない分を補填するために死亡保障を設定するのは正しいですが、子どもの独立後も保障を維持したままにしているケースがあります。必要保障額は定期的に見直しましょう。
フリーランスとの比較
フリーランスが考えるべき保険の整理では、フリーランス全般の保険の考え方を整理していますが、個人事業主(青色申告者)の場合は以下の制度が追加で使えます。
- –小規模企業共済:退職金代わりの積立(所得控除が使える)
- –iDeCo:老後資金の積立(掛金全額が所得控除)
保険と並行して、これらの「節税しながら積み立てる仕組み」を活用することが重要です。
まとめ
個人事業主の保険の優先順位は「①就業不能(収入が止まるリスク)→ ②死亡保障(扶養家族がいる場合)→ ③医療保険」の順です。会社員が当たり前に受けている傷病手当金・雇用保険の空白を意識した設計が、個人事業主の保険の出発点です。
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職業・家族構成・貯蓄額を入力して、今の自分に必要な保険の範囲を整理できます。